コラム No.100

来るべき明日

自分の発した言葉を、自分で噛みしめることがある。最近「国語の問題」を何度も思い出す。国語の文章題で、問題の文章を全部読んでから設問に答えるか、設問を読んで文を読んで答えるか、という話。

時間効率を考えるならば、後者のほうが適している、という話をする。何が問われるかを先に知った上で状況を読み取って行った方が処理が早い。Webサイト開発でも、先読みは必要であり、ドキュメント制作体制などの事前準備が必要なことを示すためのものだった。でも、もっと広い話に応用できる気がする。

■将来の夢:

尊敬する友人の中で、課題を先読みした武勇伝を持つ人がいる。Flashに憧れて、Macromedia主催のセミナーの最前列でかぶりつくように見ていた人だ。彼は、その三年後、壇上に立っていた。

彼にとって、壇上に立つことが目的ではなかったろう。けれど、壇上に立つための必要条件を見切り、この業界の中でそのスキルを研ぎ澄まして行った結果、壇上に上がり、技術紹介を雑誌に連載するようになった。

彼はその話をする時、願わないことは実現しない、という文脈で話す。そして、やりたいことを、強く心の中に刻んでおくことは、自分の解くべき課題を認識しているのと似ているように思う。

文章を読んでから設問を見ていては、技術革新が余りに早いネットの時代には、自分の夢さえ見失ってしまう。時代が変わろうが、技術が変わろうが、やりたいことを忘れない。先に「問われること」を押さえておくことは、需要なポイントかもしれない。

現実は、国語の問題のように分かりやすくはない。何が問われるのかはどこにも書いていない。自分で読み取るしかない。そして、それを読み取るのも、その人のスキルだ。それをチャレンジと呼んだり、ヴィジョンと呼ぶのかもしれない。

■収支的に辛いプロジェクト:

私は、辛い仕事を受けたことも、お願いしたこともある。どちらの場合も、同じ言葉が鍵になる。「今度埋め合せするから」とか「今回だけ我慢して」。でも、過酷な発注した立場から言えば、「今日戦わない人は、明日も戦わない」。

過酷で対価以上の仕事の埋め合わせをする方法は、数種類しかない。今回が特別であることを「顧客」に十分に納得させ、ある意味恩を売っておくこと。あるいは現在のプロジェクトと並行して次プロジェクトを推進すること。どちらも、顧客への高度な信頼関係と度胸が必要だ。普通はありえない関係だろう。

こうした正当な労働対価を支払う方法以外では、広告費に変換する方法がある。とにかく仕上げたプロジェクトを可能な限り露出する。雑誌、メルマガ、セミナー、持てる限りを使って宣伝する。その結果、別案件が作り手に打診されれば、眠れぬ生活を強要した側としては、少しは罪悪感から開放される。

でも、やはりそんな事をやる人は稀だろう。自分が喰うのが精一杯の世界なのだから。今日、クライアントや上司と戦って適切な予算を確保できない人が、次回にそれができると考える方が不自然なのだ。二回目のプロジェクトに、前回分の残金という項目があることはない。

映画で、「直ぐに返すから」と何度も借金をねだるような卑劣漢が、薄幸な主人公に近づいてきたとき、誰もが「ピンチ」だと思い、「やめておけ」と心に願う。なのに、自分の前に、適切な予算を持たずに、重労働をねだる者が頭を下げると、ムゲには扱えない。映画では、下げた頭の下には、緩んだ口元が映っているようなシーンなのに。

契約は対等な立場で交わされるものであり、金を持っているものが、スキルを持つものを好きにして良い訳ではない。なのに、「金」の前に「スキル」は頭を上げられない。歪んだ関係だが、対応する方法が一つある。

正等対価を払わぬ相手を見切ることだ。払わないと言われてから対処するのではない。払いそうにない相手かどうかという「問題」を先に読んでおく。問題が分かっていれば、兆候に気付く可能性が高くなる。

対応できないのは、開発に火がついた状態で、手も足も出せない状況で、交渉ごとが入ってくるせいもある。初期の頃から「ヤバイ」と気が付けば打てる手立てが増えるだろう。

Webは詰まる所、「投資」でしかないのだと思う。手を届かせたい対象ユーザがいるから開発をする。手を届かせたいと願う気持ちの強さは、予算という額に現れる。あるいは熱意ある人が、担当者として権限を持たされているか。どんな人の発言を重視するかは、企業にとっては投資であり、そこに目的がある。

企業の「投資額」が不充分だと感じたら、それは長続きするプロジェクトでもなければ、良い関係を構築できる可能性も低いだろう。投資を値切るようでは、収穫にも期待していないのだ。少なくとも時代を切り拓いていくような熱意はそこにはない。ならば、志あるWeb屋もそれに付き合う必要はない。

今やWebは単なるページ群ではない。その企業のやる気もお客様への気持ちも現してしまう「鏡」のようなものだ。そして、それを構築するには高度なスキルが要求される。その高度なスキルは、単なる技術力だけでなく、同じ気持ちでお客様と接することができるような共有意識も含んでいる。徐々に単発の発注から、コンサルタント契約のような中長期の付き合いがチラホラと見えてきているのはそのためだ。

日米通算200勝という偉業を成し遂げた、野茂投手が渡米当時頑なに、複数年度契約にこだわっていたのを奇異に感じた(というよりハラハラした)けれど、彼は契約時のことよりも、シーズン中にどこまで「投手」に集中できるかという課題を先読みしていたのだろう。

安定した技術提供を望むなら、同じように連続複数プロジェクト契約とでも呼べるような、互いを「パートナー」と呼べる関係が最適だろう。何のことはない、コミュニケーションのアウトソーシングだ。人事部のアウトソーシングと同様に短期でコロコロ替えるものではなく、信頼度も高い関係。社内では育てられない異文化を含んだ、社外遊軍部隊と呼んでもいいかもしれない。

そして、これらはやはり、如何にお客様(エンドユーザ)との意思疎通を図るかという「設問」を先読みした企業が、先に動き出している。プロジェクト毎に発注先を選定するためにかけてきたコストを、その目を付けた企業への教育などの投資に使うことも可能となる。戦略的Web活用の第一歩である。

ヴィジョン的課題、防衛的設問、戦略的問題、様々な形をした、先に読むべき問題が存在する。そして、解答を得るためのプロセスには、もう一つ手法がある。有り得ない選択肢を早めに消し去ることだ。

設問を読み、文書を読み、もう一度設問を見る。五択問題などでは、アテヅッポウの回答で正解しないように、論外な選択肢が含まれていることが多い。そして、時間が迫ったりしている状態で選ぶと、見事に引っかかったりする。

現実の問題でも、同じようなことがある。あり得ない選択肢を残しておくと、部長会議等で、泣かされることもある。信じがたい結論を出される前に、危うい可能性は早めに断った方が良い。選択肢に線を引いて消すように。

そして、未来の有り得ない選択肢だけでなく、過去の情報から「地雷」も合わせて除去したい。私は、私を苦しめた相手を忘れない。人を苦しめて仕事をしているフリをする人には、どこか共通点がある。その共通点を見切れたなら、地雷を踏まずに、先まで辿り着けるかもしれない。

良心も志もある開発者が淘汰され、地雷が地中にヌクヌクと埋まり続けてられるのは、理不尽だ。次の人のためにも、地雷は見つけたら撤去したい。

聖書には、「汝の敵を愛せよ、汝の敵のために祈れ」という言葉がある。これを根拠に、クリスチャンは誰もを愛する博愛主義者だとされる。でも、私の聖書理解は少し違う。

この言葉の通り、敵を愛したところで、敵は敵なのだと思う。敵のために祈っても、そのことでは敵は味方にはならない。敵を敵として認識することを、この言葉は禁じていない。敵が居なくなることも保障していない。敵は敵のままずっと居る。居なくなることはない。

何を境にして、「こちら側(味方)」と「あちら側(敵)」に別れるのだろう。この聖書の言葉は、正しい「境界線」を持ちなさい、と言っているようにさえ感じる。あなたの「敵」は誰ですか?、あなたの「課題」は何ですか?、と。

人が誰かを敵とすることはしょうがない。その上で、その敵との付き合い方を諭している。ただ無闇にいがみ合ったり、攻撃し合っても、関係は酷くなるばかりだ。状況は良くならない。

戦い合うことが「課題」ではなく、状況を良くすることが「課題」であるならば、手にすべきが武器かどうかは考え直してもよいだろう。先ずは課題の整理である。

三年後に私が航空券予約をするときどんなWebアプリを使っているのか、宿の予約は?、あるいは家計簿は?。視点を先において、今ある課題を整理して見る、敵を整理して見る。それが見切れたなら、自分自身の今やるべきことが、もう少し意味あるものに肉付けができるかもしれない。

万能に見えたパソコンが、ネットがなければただの箱に見えるほどに、ネットは私達の生活の一部になりつつある。この「深化」を留めることはできないし、留めてはいけない。その上で自分が対処すべき課題を読み取りたい。

もっと楽しく開発できる時代が、もっと使いやすいWebが、「来るべき明日」として目の前に現れることを、十年近く前にWebに出会った時よりも強く、遥かに強く願っている。だから頑張れる。だから進んでいける。

以上。/mitsui”感謝・再見!”

ps.
R2(Ver.2)がどのような形でリリースできるのか分からないのですが、どんな感じになるのかが垣間見えるプロト版を作成しました。要点は、サーバ製品になるという点、そしてWebサイトの状態をXML化するエンジンであるという点。XML化してしまえば、様々な応用が可能です。また、七面倒くさくてコムツカシいことをやっているように見えるかもしれませんが、サイトの情報がXMLで吐き出せたなら、InDesignとかに組み込んで、詳細なドキュメントが自動生成すらできます。また、XMLデータを基盤にFlashでインタラクティブなサイトマップも作れます。こんな未来もあるかもしれないと思っていただければ。

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